音緒がクリーンキーパーとして、この院に来てから、
早くも2年半以上が経ちました。

この2年半の間にキーパーからアシスタント、ナースエイドへと転職していった人も
少なくありません。
音緒はキーパーの中ではすっかり古い方になってしまいました。

飲み会などがあると、仲良しのナースエイドの人や婦長に
『エイドにはならないの?』と聞かれます。
『いずれはなりたいと思ってるんですが、まだ子供が小さくて無理なんですよ』
今まではそう答えてきました。

数日前、家庭の事情でキーパーからエイドになったMちゃんから聞いた話に
音緒は今困惑しています。

音緒『仕事はどう?何が大変?』
Mちゃん『一番大変なのは人間関係。すごい大変。』
音緒『え〜?そうなの?仕事内容じゃなくて?』
Mちゃん『仕事はね、実際キーパーの方がたいへんよぉ!』
音緒『へぇ〜そうなんだ・・・仕事、おもしろい?』
Mちゃん『仕事はおもしろいよ!今までさ、してあげたくても手を出せなかったのに、
○○してくれる?って言われたら、自分が8割がたしてあげられるっていうのが幸せ』
音緒『あー・・・・そっかぁ。そうだよねぇ・・・』
Mちゃん『あのね?ちょっとショックなことかもしれないけど、キーパーやってたときは
自分もスタッフの一員って思いでやってきてたけど、
実際自分がエイドになってみるとね、エイドはキーパーのこと全然眼中ないのよ』
音緒『・・・え?・・・』
Mちゃん『エイドさんが"キーパーやめてエイドになりな"って言ってたのが
よくわかるよ。』
音緒『・・・・そっか』

いつか時期がきたら、エイドになろうと思っていた。
それまでは、勉強も兼ねてキーパーでがんばろうと思ってた。
患者様とも接して、いろいろ学んで、エイドさんとも仲良くなって。
Mちゃんが言うとおり、スタッフの一員のつもりでいた。
でも、きっとほんとは違うんだ。
いや、ほんとは気づいていたけど、そんなことないって目を瞑ってきたんだ。
音緒はただ、部屋さえ綺麗にしてればいい、それ以上は何も望まれていないんだ。

初めての疑問・困惑・迷い。
自分の存在価値さえわからなくなってしまった。
あたしが今ここで、働いている意味は?
必要とされてるのが【あたし】ではなく、【あたしの仕事】だと今更気づいた。

すごくすごく考えたんだ。
悲観的にもなったし、寂しい気もした。
でもね。
音緒、よーく考えてみて。
今まで、確かにキーパーは、輪から外されてるようなところはあった。
朝礼には出させてもらえないし、仕事の優先順位は一番下。
だけど、あたしが接した患者様の想い出は本当。
仲間として認めてくれてるエイドさんがいたのも本当。
『黙々とよく動いて偉いねぇ』といわれたことも、
『ありがとうね』と感謝されたことも本当。
長く働いている強みもあって、ひとつの結論が出た。

"眼中ないなら、眼中に入りこんでやろうじゃないの!"

おとなしくしてる必要はない。
自分の存在をアピールしていけばいいんだと。
飲み会なんかも出るのやめようかな・・・なんていじけかかってたけど、
こんな時こそ前にできゃ!
部署の違うMちゃんのところではキーパーは部外者かも知れないけど、
音緒のところではそんな定説変えてしまおう。
そう考えたら、すごく気持ちがすっきりした。
まだ、がんばれそう。


-音緒-

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